不器用なフクロウ
「直人、飲み過ぎなんじゃない?岩城さんにあんな言い方しなくてもいいのに」
直人の隣に並び歩きながら、わたしは言った。
直人は真っ直ぐ前を見たまま「そんな酔ってねーよ」と言った。
「でも直人こわかったよ」
「俺は信用してる奴にしか優しくしないって言ったろ」
その言葉に黙り込むわたし。
いやいや、わたしは特別じゃない。
だって、直人は主任に対しても優しい。
優しいというか、他の人に対して向けるあのトゲトゲした感じを主任には出さない。
それは、直人が主任を信頼している証だと思った。
だから、わたしに対しての優しさも、主任に向ける優しさと同じだ。
「何かされたら、俺に言えよ?」
「何かって?」
「何かったら、何かだよ」
面倒くせぇなー、とでも言うような顔をして直人が言う。
わたしはそんな直人を見て、クスッと笑った。
そういえば、初めて直人と会った時もこんな顔してたなぁ。
入社したてで長いオリエンテーションがあって、この顔で総務の人の話を聞いていた。
気持ちが顔に出やすい、素直な人なのかもしれない。
「そいえば、菜月って何でフクロウ好きなの?」
突然の直人からの質問に「え?」と驚くわたし。
今の話の流れからは予想もつかない、あまりにも唐突過ぎる質問だ。
「会社のパソコンのとこにフクロウ飾ってるよな?」
「うん、可愛いでしょ?」
「あぁ、まぁ」
「不苦労で苦労しないって意味で飾ってるのもあるけど、フクロウってね、一途なんだって」
「一途?」
そう言う直人の頭の上には、たくさんの?マークが見えた。
「フクロウって一度夫婦になると、どちらかが死んじゃうまでずっと一緒にいるんだって。素敵だと思わない?」
わたしがそう言うと、直人は「ふーん」と言いながら空を見上げた。
そして「人間もみんなそうだったらいいのにな」と言っていた。