不器用なフクロウ


優しい夜風が頬を触って通り過ぎて行く。
もうすっかり夏の生温い風なんかではない、秋の風。

広い通りに出るとタクシーを拾い、直人と共に乗り込んだ。

窓の外を流れる、まだ眠らない街の灯りが何だか寂しく感じる。
笑い合いじゃれ合う男女の姿がやたらと目について、もう恋愛をしないと誓った自分を虚しくさせた。

本当は誰かに寄りかかりたい、愛されたい。

すると、頬に何かが触れて驚き、振り向く。
わたしに頬に触れたのは、直人の指先だった。

それで気付いたのだけれど、わたしは涙を流していた。

「何泣いてんだよ」
「な、泣いてないよ」

わたしは慌てて、手のひらで頬に流れる涙を拭った。

直人に涙を見せてしまった。
それが恥ずかしくて、窓の外に顔を向けた。

「泣くと化粧崩れるぞ」
「うるさい」
「菜月ってさ、」

直人が何かを言い掛けたので、わたしはふと直人の方を見た。

すると、唇に優しく何かが当たった。
すぐ目の前には直人がいて、一瞬何が起こったのか理解出来なかった。

混乱して、体が動かない。

唇から離れて直人の顔がハッキリ見えるようになり、その時初めてキスされたのだと気付いた。

そのあとのことは、よく覚えていない。

多分、無言でタクシーの中をやり過ごし、わたしが先に降りる時に「おやすみ」と言葉を交わして別れたのだと思う。

唇に触れたあの感触がまだ残っている。

直人にキスされた。
その事が頭の中をグルグルと回っては、酔ってたからだと自分に言い聞かせた。

けれど、キスされて嫌な気持ちはしなかったことは、どうにもこうにも誤魔化すことは出来なかった。

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