不器用なフクロウ

「あれ?もう主任来てる」
「わたしと同じこと言ってる」

直人はわたしの向かえのデスクにつくと、「そんな仕事ばっかりしてて、奥さん寂しがってません?」と言った。

主任は直人の言葉に苦笑いを浮かべると「ほっとけ」と言って、わたしが淹れたブラックコーヒーを一口飲んだ。

直人もまた主任同様、女子社員から人気があった。

しかし、直人はそんなチヤホヤにはお構い無しで、近付いて来る女子社員たちに冷たい態度を取り、その冷たさに印象が悪くなることもあるようだった。
その冷たさが逆に堪らない、という人も中には居るようだけれど。

「菜月、コーヒー俺も」

直人はパソコンに向かいながら、こっちを見ずに言った。
わたしは「はいはい」と返事をしながら、ドリンクスペースに向かいコーヒーを淹れた。

直人には、ミルクと砂糖を2杯。
クールなくせにブラックコーヒーが飲めないギャップにクスリと笑ってしまう。

直人がブラックコーヒーを飲めないことを、他の女子社員たちは知らない。

「はい、どうぞ」

甘めのコーヒーを直人のデスクに置く。
直人は「さんきゅ」と言うと、カップを手に取り、コーヒーをすすった。

わたしも自分のデスクにつき、業務に取り掛かろうとする。

すると、ふとパソコン画面の右下に目がいった。
そこには、フクロウの置物が2つ微笑んでいた。

ついこないだ買ったばかりのフクロウ置物で、1つじゃ寂しいからと色違い買って飾っているのだ。
わたしはフクロウが好きで、いつの間にかフクロウ関連のものを集めてしまう癖がついていた。

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