不器用なフクロウ

定時になり、みんな帰る支度を始める。
すると、「朝永」と主任がわたしを呼んだ。

「はい」
「これから時間あるか?」
「あ、はい、あとは帰るだけなので」
「ちょっと付き合ってくれないか?」
「いいですよ」

わたしの返事に主任は笑顔を作ると「じゃあ行こうか」と言い、歩き始めた。
わたしは米原くんに「お疲れ様」と言うと、主任と共に会社をあとにした。

会社を出てからは、以前飲み会で利用したことがある居酒屋に向かった。
いつもとは、どこか違う主任の表情にわたしは何か話があるのだと身構えて、店員に案内されたテーブル席へついた。

「何飲む?ビールは苦手なんだったよな?」
「そうなんですよね~。じゃあ、カルピスサワーにします」

わたしがそう言うと、主任は飲み物注文待ちの店員に「すみません、カルピスサワーとウーロンハイ」と注文してくれた。
店員は「かしこまりました」と言うと、席を離れて行った。

「今日はごめんな、急に付き合わせて」
「いえ、全然!」

お互いにおしぼりで手を拭き、どことなくぎこちない雰囲気。

すると、主任は早々に話を切り出した。

「実はさ、俺、異動することになったんだ」

予想もしなかった主任の言葉に「え!!!」と声を上げるわたし。
正直、とてもショックだった。

「どこにですか?!」
「店舗の方に行くことになった。駅前店の課長として行って欲しいって言われて」
「昇進ですか!おめでとうございます!」
「あ、ありがとう。でも、正直あまり嬉しくないんだ。今いる販促部が好きだから」

主任は寂しそうな表情を浮かべて言った。

出来ることなら、わたしも主任にはずっと販促部に居て欲しいと思った。

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