不器用なフクロウ
注文していたお酒が運ばれてきて、とりあえず乾杯をする。
一口含んだカルピスサワーは、身体が拒否しているかのように美味しく感じなかった。
「それで俺が居なくなるから、部署の中から俺の代わりを指名しなきゃいけなくて。主任代理って感じで」
「そうなんですか、年数的には菅野さんですか?」
「まぁ、そうなんだけど、菅野さんは適任ではないと思ってる。みんなを引っ張っていけるタイプじゃないだろ?」
主任の言葉に「まぁ、確かに」と納得してしまうわたし。
わたしはお通しの枝豆を一つ手に取ると、その一粒をかじった。
「朝永、お前やってみないか?」
グッと身を乗り出して言う主任。
わたしは何を言われているか理解できず、「へ?」と間抜け返事をした。
「主任代理、やってくれないか?」
「そ、そんなわたしなんて!出来るわけないじゃないですか!」
「朝永はみんなに信頼されてるし、いつも周りを見れていて適任だと思うんだ」
「わたしなんかより、直人の方がいいんじゃないですか?人付き合い悪いけど、冷静な判断が出来て仕事も一生懸命だし。それにあぁ見えて優しいとこあるから、口では冷たいこと言うけど、みんなに無理はさせないと思います」
わたしはそう言いながら自分で気付いた。
そう、直人は優しい人だ。
あんなことがあって、直人が不器用だけど本当は優しい人間だということをすっかり忘れていた。
わたしは、自分の感情に振り回され過ぎていた。
「お前らって、本当に仲良いんだな」
ハハッと笑い、主任が言う。
わたしはキョトンとした顔で主任を見た。
「実はさ、早坂にもこの話をしたんだ。そしたら、あいつも朝永を薦めてきた。菜月は、何事にも一生懸命でみんなに信頼されてて、人を思いやれる心を持ってるからって。頑張りすぎるところがあるから、そこは俺がフォローしますだってさ?」
主任はテーブルに頬杖をつき、そう言うと穏やかに微笑んだ。
直人がわたしのことをそんな風に言ってくれていたなんて、、、
「わたし、頑張ります」
気付けば、わたしはそう返事していた。
主任は「頑張るな、いつもの朝永らしくやればいい」と言って、ニコッと笑った。