不器用なフクロウ
わたしが米原くんに水が入ったコップを差し出すと、米原くんは嬉しそうにそれを受け取り「ありがとうございます」と言って、水を一気に飲み干した。
そして「菜月さんが入れてくれた水飲んだら、やる気出て来ました!」と言って、背筋を伸ばした。
「それは良かった」
「菜月さん、今日の昼ってどうするんですか?」
「んー、まだ特に決めてないけど」
「じゃあ、俺と一緒にどうですか?お礼にランチ奢りますよ」
キラキラした笑顔でそう言う米原くん。
わたしは「お礼って、お水入れただけだよ?」と言って笑った。
「その水のおかげで俺は今日一日頑張れる元気が出たので!」
「でも、彼女ヤキモチ妬かない?今、商品部の東さんと付き合ってるんじゃなかった?」
わたしがそう言うと、米原くんは「あぁ~」と罰が悪そうな顔をして、続けて「昨日、別れました」と言い、苦笑いを浮かべた。
「え?!まだ付き合い始めたばかりじゃなかったっけ?」
「まぁ、そうなんすけど、色々ありまして~」
エヘヘと笑う米原くん。
昨日別れて、今日二日酔い。
フラれてやけ酒でもしたのかな?
わたしは勝手にそう分析して、深くは考えなかった。
「じゃあ、お昼美味しいランチ奢ってね」
わたしがそう言うと、米原くんは「喜んで!」と言い、スーツの上着を脱いで腕捲りをすると、パソコンに向かって仕事を始めた。
無邪気で少年っぽいところが可愛い米原くん。
こうゆうところにみんな惹かれるんだろうなぁ。
そんなことを考えながら、わたしもパソコンの画面に向かうと、メールが届いていることに気付く。
メールボックスを開いてみると、送り主は向かえに座っている直人からだった。
『あいつに関わると、面倒なことになるぞ』
わたしはパソコン越しに直人を見た。
直人はチラッとわたしを見ると、すぐに視線をパソコンに戻して何か打ち込みを再開させた。
面倒なこと。
女を敵に回すことになるぞ、って意味かな。
確かに一緒にランチに行っただけで、周りから色々と誤解は招きそう。
だけど、それで米原くんを避けるのは違うと思う。
わたしは直人に返信をした。
『そうなった時は助けてくれるでしょ?笑』
それに対しての直人の返信は来ることはなかった。