不器用なフクロウ
「菜月さん、ランチはパスタでいいですか?」
わたしの歩幅に合わせ、隣を歩きながら米原くんが言う。
彼の無造作に跳ねる茶色い髪の毛が太陽の光で輝いて見えた。
「うん、いいよ」
「とっておきのお店あるんで、菜月さんには教えちゃいます」
「とっておきのお店?」
「はい、この時間帯なのにそれほど混んでなくて、でもランチは美味しい隠れ家的なお店です」
「そんなお店あるんだぁ。そのお店でよく女の子落としてるの?」
わたしが冗談半分でそう言うと、米原くんは少しムッとした表情を見せて、「女の人を連れて行くのは、菜月さんが初めてですよ」と言った。
「そうなの?」
「俺、そんなにチャラく見えてます?」
「チャラくってゆうか、常に彼女いるからモテるなーとは思ってるよ」
わたしの言葉に米原くんは空を見上げた。
その横顔はどこか悲しげで、切なかった。
「俺、人を好きになるってことが分からないんですよね」
独り言のように溢したその言葉は、わたしの耳にこだまするようにしばらくの間、鳴り響いていた。
米原くんのとっておきのお店は路地裏にあった。
看板も出ていなくて、確かに隠れ家のようなお店。
中は狭くてお洒落で、どんなお店でも混雑している時間帯だというのに、待ち時間なく座ることが出来た。
一番奥の角の席に座ると、ダンディーな店主がお水を2つ持ってやって来た。
「おう、女の子連れて来るなんて初めてだな。彼女か?」
ダンディーな店主が茶化すように言う。
米原くんは「会社の先輩ですよ」と答えた。
「こいつチャラそうに見えるけど、結構繊細なんだよ。いつもここ来て、悩みぶちまけてる」
小声で秘密をバラすようにダンディーな店主は言った。
「ちょっと何言ってんですか、シゲさん!」と恥ずかしそうに言う米原くんは、シゲさんと呼ぶダンディーな店主を手で払っていた。
シゲさんはククッと笑うと、水を置いて「ごゆっくり」と厨房へと戻って言った。