不器用なフクロウ
米原くんは、テーブルの脇に立ててあったメニュー表を開くと、わたしの方へ向けて開いてくれた。
「俺もう決まってるんで、ゆっくり決めて下さい」
それほどメニュー数は多くないけれど、どれも美味しそうだった。
「米原くんは、いつもどれ頼むの?」
「俺はナポリタンです。シンプルだけど、旨いんですよ」
「へぇー、じゃあ、わたしもそれにしようかな」
わたしがそう言うと、米原くんはニコッと笑い「わかりました」と言って、メニュー表を元に戻した。
「シゲさん、いつもの2つねー!」
米原くんが厨房に向かって注文すると、厨房からは「はいよー」とシゲさんの声が返ってきた。
どれだけ米原くんがこのお店に通い詰めているのかが、よくわかるやり取りだった。
「いつからこのお店に通ってるの?」
「3年くらいですかね?一人でフラフラしてたら、偶然見つけたんですよ」
「シゲさん、面白い人だね」
「お喋りジジイで困りますよね~」
すると、米原くんの言葉に反応して厨房から無言でシゲさんが出て来た。
米原くんはシゲさんに向かって「あ、嘘うそ!冗談!」と手のひらを見せてなだめるように言った。
シゲさんは目を細めると、無言のまま厨房に戻って行った。
「東さん、、、まだ米原くんのこと好きなんじゃないかな?」
「え?」
突然のわたしの言葉に驚く米原くん。
さっきの東さんの寂しそうな表情をふと思い出し、つい口に出してしまった。
「さっき、寂しそうに米原くんのこと見てたから」
わたしの言葉に何かを考え込む米原くん。
汗をかくコップに視線を落とし、唇をギュッとつぐんだ。
「あ、ごめんね。余計なこと言ったね」
わたしが慌ててそう言うと、米原くんは首を横に振り、悲しげに微笑んだ。
「俺が悪いんです。俺が、、、ちゃんと好きになってあげられなかったから」
情けない、まるでそう言うように米原くんは自分を責める言い方をした。