二番目でいいなんて、本当は嘘。
そのとき、コンコンとバスルームのドアをノックする音が聞こえてきた。

「未央さん、大丈夫ですか?」

痺れるような甘い低音ボイス。
そして、部下に対しても敬語で話しかけてくる丁寧な対応。

間違いない。桐生社長である。


「すみません、お気遣いなく……」
「そうですか。まだ体調がすぐれませんか?」
「いえ、大丈夫です」
「いま簡単な朝食を用意しますので、落ち着いたらリビングにどうぞ」
「恐縮です……」


洗面台に手をつき、必死で冷静さを呼び戻す。

よく見ると、歯ブラシやシェーブローション、折り畳まれて積まれているタオルには、生活感がにじみ出ていた。
ちなみにここは、私の家ではない。

ということは、ここはホテルではなく、桐生社長の自宅だという可能性が高い。
そして私は、ここにやってきた経緯を、うっすらとだが覚えている。

「やっちまった……」

さっきと同じセリフを吐き、私はため息をついた。
< 16 / 250 >

この作品をシェア

pagetop