やさしく包むエメラルド
他に思い付かないので、歩いて7分のコンビニまで雨上がりの涼しい風を感じながら歩いていく。
この非常事態に浮き足立っているのか、足元でぴしゃぴしゃ跳ねる音は楽しげにすら聞こえる。
台風の名残なのか時折強い風が吹いて、青モミジに残っていた水滴をわたしの顔まで飛ばしてきた。
羽織ったカーディガンの袖口でそれを拭う。
停電という実感がいまいちなかったのだけど、通りに出ると信号機は消えていた。
さほど大きくない通りだから、行き交う車の隙間を縫って走って渡ったけれど、大きな通りではこうもいかないだろう。
お散歩気分で気楽にやってきたわたしと違い、コンビニ周辺は少し殺気立っていた。
同じように考える人がドアから溢れて列をなしている。
レジに並ぶ列ではなく、コンビニに入るための列であるらしい。
入り口から覗いてみても、人ばかりで中の様子はわからない。
懐中電灯の灯りがあちこちでチラチラ動いているだけだった。
「あらー、こんにちは!」
「あ、どうもー」
「買えたの?」
「うーん、一応ちょっと。コーラとバームクーヘンと、インスタントのスープとね。ご飯になるようなものは何も残ってなくて、あとはお菓子ばっかりよ」
「みんな考えることは同じだものねえ」
コンビニから出てきた人とその知り合いの会話を聞いて、わたしは来た道をさっさと引き返す。
のんびり惰眠を貪っていた自分に、食べ物を恵んでくれるアリさんなんていないのだ。
食パンはあるし、いざとなったらカップラーメンを水で戻して食べればいい。
あとは海苔とハムはそのまま食べられる。
停電は不便だけど、死にはしないだろうとふたたびたらたら歩いて帰った。