やさしく包むエメラルド
お隣に住む宮前さんは朝が早い。
夏は特に早くなるのだと、宮前さんのおばさんは言っていた。
事実、わたしがまだベッドでゴロゴロしている時間に、お隣の一家は朝食を終えている。
この季節は一日中縁側の戸を開けているらしく、そのため庭を挟んで隣のアパートの二階に住むわたしに、居間の物音が直接届くのだった。
ここに住んで三年目。
よほどの熱帯夜でない限り窓を開けて眠るわたしには、すでに宮前家の朝の音が夏の風物詩のように感じられる。

ぴろりらん、りんらんろんらん。
気づくと長ーーいまばたきをしていたようで、3分はほんの一呼吸で過ぎ去っていた。
アラームを止めて身体を起こすと、よく手入れされた宮前家の庭が見える。
この住宅街にあってはまずまずの広さがあり、青々とした芝生と澄んだ池、庭木の濃い緑色の葉が清々しい。

ぴろりらん、りんらんろんらん。
切り忘れたアラームのスヌーズ機能が発動した。
今度こそアラームをオフにする。

「はあ~。朝の時間と永遠の愛はうたかたね……」

清々しくないため息が、肌に馴染んだタオルケットに落ちる。
それを払いのけて、さわやかな朝と愛のまぼろしに別れを告げてベッドを降りた。


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