やさしく包むエメラルド

クリーム色のタイルが貼られたお風呂場は、古いながらも明るく清潔だった。
アパートのバスルームには窓がなくいつも暗いけれど、ここは高い位置に取り付けられた明かり取りの窓から光と風が流れてくる。
おばさんが用意してくれた大きなタライと泥汚れがよく落ちるという緑色の固形せっけんで、シミの部分を軽く揉むと、それだけで汚れが跡形なく消えた。

「わー! 気持ちいい!」

お日さまの光を受けて、白いシャツは発光するように真っ白になった。
全体も軽く洗って水を交換し、柔軟剤と糊づけまでしてから絞る。
さすがにシワばかりはどうしようもない。
パンツの方は汚れの場所がよくわからないので、全体的にせっけんをつけてやさしく洗った。
こっちは絞るのも躊躇われて、畳んだ状態でぎゅっぎゅっと押して脱水したものをベランダに干す。
あたたかい日差しと少し冷たい風がワイシャツとパンツを乾かしてていく。

「今日は風があるからよく乾きそうね。洗濯できないなんてもったいない」

きれいな青空を見上げながらおばさんは残念そうに言った。

「暇だしカーテンでも洗ってこようかな」

休みの日は何をするともなくテレビを観たり、本を読んだりしている。
テレビは観られないし、なんとなく落ち着いて読書する気持ちにもなれない。

「あ、いいわね、それ」

沈みがちだったおばさんの顔がぱあっと明るくなった。

「まとめてうちの浴槽で洗いましょ。別々にやるより効率いいわ」

わたしの返事を待つことなく、おばさんはカーテンをはずしに家の中に戻って行った。


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