やさしく包むエメラルド

「鳥とか枝なんてものじゃなくて、もっとみんなが共感できるような例えって何かないかな? ちょっと考えてみましょう」

結局口にしたのは、どうでもいい話だった。

「またそういう突拍子もない」

初めて話したときのように、それでも啓一郎さんは拒絶しない。

「仲良くふたつ並んでいるもの……金剛力士像?」

「最初に思い付くのがそれ?」

「何百年のときを寄り添っているじゃないですか」

「愛の誓いなのにごつごつし過ぎだろ。おしどりあたりが一般的じゃない?」

「あ、おしどりって毎年相手を取っ替え引っ替えするらしいですよ。全然ダメです。“手袋”とかどうかな?」

「よく片方なくす」

少し身体が冷えてきたけど「寒いなら戻ろう」と言われたくないから我慢して、ペアになるものを連想し続けた。
それでも月は少しずつ少しずつ西に移動していくから、回転しすぎた地球が立ち眩みを起こして、しばらく立ち止まってくれないかな、なんて願ってみたりもした。
けれど、

「風邪ひかせちゃうな。引き止めて悪かった」

そんな言葉で啓一郎さんはあっさりと幕引きをして、ミシミシとベランダを出ていく。
三千世界のカラスも四千世界のニワトリも閉じ込めて、この夜を引き延ばしたとしても、朝まで一緒にはいてくれないのだ。

頂点より傾いた月はまだ煌々と光を放っていて、そのせいか夜空もいつもより明るい。
透き通って深みのあるきれいな青。
あれは、“瑠璃色”っていうんじゃなかったっけ?



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