やさしく包むエメラルド
8. デートは秋色をまとって
ハニートーストのモンブラン乗せ。
安納芋タルトのバニラアイス添え。
シャインマスカットパフェ。
秋の味覚はおとめ心をくすぐり、エンゲル係数高くわたし肥ゆる秋……。
停電で仕事が止まったせいかバタバタした週明けを迎え、バタバタしたまま毎日が過ぎて行く。
段階を踏まずに急激に気温は下がり、秋冬物を取り出すためにひっくり返したクローゼットもそのまま。
忙しい毎日に痩せ細るのは思いばかりで、身体の方はなぜか楊貴妃街道爆進中……。
「あ、もうこんな時間!」
ヨーグルトの残りを口に突っ込んで、空はゴミ袋に投げ入れる。
身支度を整え、動きの鈍くなった身体とゴミ袋を抱えて家を出たのはちょうど7時23分。
「おはようございます!」
間に合った!
「おはよう」
規則正しい啓一郎さんは、今日もいつもと同じ時間に両手にゴミ袋を提げて現れた。
夏のようなワイシャツ姿ではなく、チャコールグレーのスーツを着込んでいる。
「あ、そのネクタイ。この前食べたモンブランの栗とよく似た色です。似合ってますよ」
「褒められた気がしない」
両手に持っていたゴミ袋を一度地面に置いて、片手でボックスの蓋を押さえて自分の分、それからわたしの分も入れてくれた。
「ありがとうございます。あ、おはようございます」
「おはようございます」
顔だけは知ってる近所の奥様がゴミ袋をふたつ抱えてきた。
啓一郎さんはもごもごと「おはようございます」と言ったけれど、ちょうど車が通りすぎたタイミングだったから、伝わったかどうかあやしいものだ。
それでも奥様のゴミ袋も受け取って入れてあげている。
「すみません。ありがとうございました」
笑顔で頭を下げる奥様に、軽く会釈だけして応えている。
奥様が背を向けて帰って行くのを確認し、元来た道を一緒に戻りながら、わたしは啓一郎さんに説教を始めた。
「啓一郎さん。ちゃんと挨拶返してるのに、きっと届いてませんよ」
元からハキハキしたタイプではないけれど、慣れた人と話すときはちゃんと話せる。
それが親しくない相手になった途端、唇の内側から言葉が出ようとしないみたいなのだ。
「……慣れない人と話すのは苦手で」
「よくそれで仕事できますね」
「仕事になれば平気。共通の話題に困らないし」
「言えばいいってものじゃないですよ。挨拶なんて伝わってないと意味ないんですから。啓一郎さんが失礼なひとだと思われるのは嫌です」
「……気を付けます」