やさしく包むエメラルド
「じゃあ、温泉以外のどこか観光地ですかね?」
「父親が人混み嫌いで。だから旅行ってほとんど行ったことない」
このタイミングでリゾットとパスタが運ばれてきた。
赤いソースにエビ、イカ、ムール貝。
啓一郎さんのパスタも彩りがきれいなのに、頭を使っているせいかお互い楽しむ間もなくかき混ぜてしまう。
おばさんならどこが一番楽しめるだろうか?
あまり騒がしくなく、ゆっくりできて、他人に気兼ねしなくてもいいような。
「京都、金沢、北海道、人気の観光地はどこも人多そうだし。高原は夏のイメージですよね。おばさんのために指宿まるごと貸し切れたらいいのに。……ああっ!」
急に声を上げたので、店内の視線が集まってしまった。
ペコペコ頭を下げて謝罪してから、啓一郎さんに提案する。
「近場になっちゃうんですけどね、貸し切りできる温泉があるんです。隣県の小さな温泉宿で、空いていればいつでも何回でもお風呂を貸し切れて、内風呂も露天風呂もあるんですよ。家族でもゆったり入れるくらい広いしきれいだし、ご飯もおいしかったです」
部屋に露天風呂がついたホテルなんかも多いけれど、余程の高級旅館でもないとサイズは小さなものだ。
それに比べて、普通の旅館の大浴場クラスのお風呂を独り占めできる贅沢はそうそうない。
「学生時代に友達と行ったんですけど、ものすごくよかったです。小さな旅館だから宿泊客も少なくて、宿ごと貸し切った気分になるんですよ。それでちょっとお話できない醜態も晒しました」
「それは言わなくていいよ」
「ちなみに学生でも楽に行けるくらいのお値段でお得なんですよね」
「そこ教えて」
作ってくれた人に申し訳ないないほど、啓一郎さんは残りのパスタをやっつけ仕事のように片付けて、携帯で予約を取る。
「大人3人だと2部屋か。部屋取れるかな?」
「そうですね。小さい旅館だから、そもそもの部屋数もありませんでした」
携帯を操作する啓一郎さんを盗み見ながら、少し冷めたリゾットを黙々と食べた。
酸味があって魚介の味が濃くておいしいけれど、お米ならばやっぱり土鍋で炊いた白ご飯の方が好きだと思った。
特に今は新米の季節。
「父親が人混み嫌いで。だから旅行ってほとんど行ったことない」
このタイミングでリゾットとパスタが運ばれてきた。
赤いソースにエビ、イカ、ムール貝。
啓一郎さんのパスタも彩りがきれいなのに、頭を使っているせいかお互い楽しむ間もなくかき混ぜてしまう。
おばさんならどこが一番楽しめるだろうか?
あまり騒がしくなく、ゆっくりできて、他人に気兼ねしなくてもいいような。
「京都、金沢、北海道、人気の観光地はどこも人多そうだし。高原は夏のイメージですよね。おばさんのために指宿まるごと貸し切れたらいいのに。……ああっ!」
急に声を上げたので、店内の視線が集まってしまった。
ペコペコ頭を下げて謝罪してから、啓一郎さんに提案する。
「近場になっちゃうんですけどね、貸し切りできる温泉があるんです。隣県の小さな温泉宿で、空いていればいつでも何回でもお風呂を貸し切れて、内風呂も露天風呂もあるんですよ。家族でもゆったり入れるくらい広いしきれいだし、ご飯もおいしかったです」
部屋に露天風呂がついたホテルなんかも多いけれど、余程の高級旅館でもないとサイズは小さなものだ。
それに比べて、普通の旅館の大浴場クラスのお風呂を独り占めできる贅沢はそうそうない。
「学生時代に友達と行ったんですけど、ものすごくよかったです。小さな旅館だから宿泊客も少なくて、宿ごと貸し切った気分になるんですよ。それでちょっとお話できない醜態も晒しました」
「それは言わなくていいよ」
「ちなみに学生でも楽に行けるくらいのお値段でお得なんですよね」
「そこ教えて」
作ってくれた人に申し訳ないないほど、啓一郎さんは残りのパスタをやっつけ仕事のように片付けて、携帯で予約を取る。
「大人3人だと2部屋か。部屋取れるかな?」
「そうですね。小さい旅館だから、そもそもの部屋数もありませんでした」
携帯を操作する啓一郎さんを盗み見ながら、少し冷めたリゾットを黙々と食べた。
酸味があって魚介の味が濃くておいしいけれど、お米ならばやっぱり土鍋で炊いた白ご飯の方が好きだと思った。
特に今は新米の季節。