やさしく包むエメラルド
「啓一郎さんとおじさんの二人部屋……何話すんでしょうね? だけどわたしとおじさんだと、ジェネレーションギャップがすごそう」

「そこは話題の問題じゃないだろ……」

「あ! 来た!」

メインとも言えるパンプキンタルトとコーヒーが運ばれてきて、わたしはうきうきとテーブルの場所を作った。

「きれいですねー!」

黄色いパンプキン生地の上に、真っ白でふわんふわんのホイップクリームが流れるようなドレープを描いている。

「いただきまーす!」

ホイップクリームに手応えはなく、その下のねっとりとしたパンプキン生地へとフォークを突き立てて、ちらっと目の前をうかがう。

「……すみません。暇ですよね?」

「なんで?」

「することないからって、そんなに見られると食べにくいです」

わたしの一挙手一投足を観察するように見ていた啓一郎さんは、少し前のめりになっていた身体を起こした。

「え? ああ、ごめん。つい。大丈夫だからゆっくり食べて」

啓一郎さんが背もたれに落ち着いたのを確認してから、パンプキンタルトを頬張った。

「あ、おいしーい!」

かぼちゃの味だけでないかと思うほど自然な甘味と、甘さを抑えたホイップクリーム。
濃いのに重くない。
下心のダシに使ったのが申し訳ないほど、これは本当においしい。
啓一郎さんはふっと表情を緩めて、自分のコーヒーに手をつけた。

「あ、口つけちゃったけど、ひと口食べます?」

新しいフォークを添えてお皿を滑らせるけれど、

「いや、いい」

と戻された。

「おいしいですよ? 甘いもの苦手ですか?」

「甘いものは好きだけど、カボチャはそれほど好きじゃない」

「ええー! おいしいのにもったいない!」

「好きな人はそう言うよね」

「もしかして、芋栗南瓜ぜんぶ苦手?」

「食べられるけど、好んでは食べないな」

こんな人に食べさせるのはもったいない、とさっさとお皿を引き戻す。

「人生の108分の1くらいは損してますよ」

「その程度なら他で取り返せるから問題ない」

モール内はどこもハロウィン一色。
オレンジ色のカボチャ、黒いコウモリ、紫色のオバケ。
赤、黄、橙、茶色と紅葉した枝も実もふんだんに飾られていて、空調や人の流れにひらひらと舞う。

「世の中は心浮き立つ秋色をまとっているというのに、楽しめないなんて残念ですね。あ、でも今日のネクタイはバーガンディですか? しぶくて飲みにくいワインみたいで素敵です」

「だから褒められてる気がしないんだよな、それ」

しぶくて飲みにくそうな表情で、ブレンドコーヒーを口に運ぶ。
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