やさしく包むエメラルド
「啓一郎さんって何が好きなんですか?」
カップをソーサーに戻し、宙をふりんふりんと飛ぶオバケを睨むようにして、考え込んでいる。
「……特にないな。どちらかというと魚より肉が好きだけど。これといった趣味もないし」
「好きな季節は?」
「うーん、春かな。暑いのも寒いのも嫌だし、秋は物寂しいから」
「秋はぜんっぜん寂しくないですよ! 世界が色を変える、うつくしい季節じゃないですか」
降り注ぐ色彩。
黄金の稲穂をなでる風。
澄み渡る空。
どこもうっとりするほどうつくしい。
「お洋服だって、夏には着られない落ち着いたグラデーションを楽しめてわくわくします」
「小花は秋に限らず年中楽しみが多いだろ? 俺は面白みのない人間なんだよ」
卑下したようでもなく淡々と啓一郎さんは言う。
確かに啓一郎さんは口がうまいわけでもないし、おしゃれなデートスポットに詳しそうでもないし、趣味もないっていうし、アミューズメント性には欠けるかもしれない。
だけど人間の“面白み”ってアミューズメント性とは別物だ。
「啓一郎さんは面白いですよ。反応とか」
「それは単に小花が俺で遊んでるだけだろう」
モンブラン、ピオーネ、ハロウィン、チェックのスカート、ワインカラーのストール、きれいな曲線のブーツ。
わたしをドキドキさせるものが秋にはたくさんあるけれど、おいしいパンプキンタルトへの食欲すら失わせるほど、わたしをドキドキさせるものが他にある。
季節が変わっても、わたしの中にはいつも、あの甘やかなエメラルドの風が吹いている。
「だって、啓一郎さん、扇風機みたいなんだもん」
「…………だめだ。それはさすがに全然意味わからない」
テーブルに両肘をついて頭を抱える啓一郎さんは、やっぱり面白い。
パンプキンタルトがこんなにおいしいのだって、きっと同じ理由。
カップをソーサーに戻し、宙をふりんふりんと飛ぶオバケを睨むようにして、考え込んでいる。
「……特にないな。どちらかというと魚より肉が好きだけど。これといった趣味もないし」
「好きな季節は?」
「うーん、春かな。暑いのも寒いのも嫌だし、秋は物寂しいから」
「秋はぜんっぜん寂しくないですよ! 世界が色を変える、うつくしい季節じゃないですか」
降り注ぐ色彩。
黄金の稲穂をなでる風。
澄み渡る空。
どこもうっとりするほどうつくしい。
「お洋服だって、夏には着られない落ち着いたグラデーションを楽しめてわくわくします」
「小花は秋に限らず年中楽しみが多いだろ? 俺は面白みのない人間なんだよ」
卑下したようでもなく淡々と啓一郎さんは言う。
確かに啓一郎さんは口がうまいわけでもないし、おしゃれなデートスポットに詳しそうでもないし、趣味もないっていうし、アミューズメント性には欠けるかもしれない。
だけど人間の“面白み”ってアミューズメント性とは別物だ。
「啓一郎さんは面白いですよ。反応とか」
「それは単に小花が俺で遊んでるだけだろう」
モンブラン、ピオーネ、ハロウィン、チェックのスカート、ワインカラーのストール、きれいな曲線のブーツ。
わたしをドキドキさせるものが秋にはたくさんあるけれど、おいしいパンプキンタルトへの食欲すら失わせるほど、わたしをドキドキさせるものが他にある。
季節が変わっても、わたしの中にはいつも、あの甘やかなエメラルドの風が吹いている。
「だって、啓一郎さん、扇風機みたいなんだもん」
「…………だめだ。それはさすがに全然意味わからない」
テーブルに両肘をついて頭を抱える啓一郎さんは、やっぱり面白い。
パンプキンタルトがこんなにおいしいのだって、きっと同じ理由。