やさしく包むエメラルド
モールはさびしげだったのに、映画館には人が溢れていた。
「そういえば、先週公開されたばっかりだっけ。じゃあ、それにしましょう」
啓一郎さんはやはり何でもいい(でもできればアニメ以外)というので、人気漫画の実写化というのを選んだ。
レイトショーで安くなることもあるだろうし、その漫画のファンなのか、人気俳優がたくさん出ているせいなのか、とても混んでいる。
「小花どうする?」
「うーん、烏龍茶」
啓一郎さんは烏龍茶とコーラを注文して、お財布を出す。
「さすがに! さすがに、わたしが!」
「小花の分はクーポン券で払ったから」
「映画のお金も出してもらったのに。いくら図々しいわたしでも、いただきすぎです」
「じゃあ、ごちそうになろうかな。ありがとう」
たった250円には過分な笑顔を残して、啓一郎さんはトイレに行ってしまった。
ごく普通のスーツ姿は人混みに紛れてすぐに見えなくなる。
あやしまれないように少し離れたところからトイレの出入口を凝視していたのだけど、その視線すらかいくぐっていたらしい。
「その服、すごくいい」
すぐ真後ろで啓一郎さんの笑い声がした。
ふいを突かれてビクッと肩を跳ね上げながら振り返ると、わたしのカナリアイエローのニットワンピースを視線で示した。
「そんなに笑うところですか?」
「いや、ごめん。遠くからでも見えるから便利だと思って」
「褒めてるように聞こえなーい」
「それはお互い様」
入場の列に並ぶ啓一郎さんから離れないように気をつけつつ、ワンピースの肩部分を軽く引っ張る。
「かわいいけど、秋冬物は値段が高いのが玉にキズなんですよね」
「そうなの?」
「さらにワンピースは高くて700円でした」
「ポップコーン&ドリンクMサイズセットと同じ値段だな」