やさしく包むエメラルド
映画館のイスは距離が近いものだけど、むしろ啓一郎さんと反対側に座る男子大学生がこちらに寄りかかっているせいで、そっちの方が気になった。
予告中の館内で、啓一郎さんはわたしとの間に置いていたコーラを持ち上げ、手すりを軽くとんとんと叩く。
了承と感謝の意味を込めてゆっくりうなずき、大学生の腕に触れないように烏龍茶を引き抜いて、啓一郎さんの方に詰めて座る。
大学生との間には、バッグを置いて小さなバリケードも作っておいた。
画面からの明かりが啓一郎さんの顔でチカチカ揺れるのを見ていたら、ほんのり笑ってくれる。
わたしも笑顔を返したところで会場は暗転した。
内容は面白かったものの、漫画原作だけあって設定が突飛で、原作を知らないわたしは最初戸惑ってしまった。
「むしろ原作読んでみたくなりましたね。よくわからないところもあったし」
「俺は途中までは読んでた」
「啓一郎さんって漫画読むんですか?」
「これ、俺が中学生くらいのとき連載始まった漫画だから」
中学生の啓一郎さんはどんな感じだったのだろう? 今とあまり変わらない気がする。
「だったらわたしは、小学校低学年か幼稚園のときですね」
啓一郎さんが目を見開いた。
「そんなに違う?」
「7歳差でしょ? そうなりますよ?」
髪の毛をくしゃくしゃと触りながら、そうかあ、7歳……そうかあ、と繰り返す。
その黒髪に天井からキラキラ灯りが落ちている。
「髪の毛の色、変でしたね。安いコスプレみたいで」
アニメの再現らしく、登場人物の幾人かは苔むしたような緑色とか、腐りかけのミカンのようにおかしな髪の色をしていた。
「見慣れないからな、ああいうのは」
学生時代には奇抜な髪の色をしている人もいたけれど、社会人になるとさすがに見かけない。
「啓一郎さんはカラーリングとかしたことなさそうですよね」
「ないな」
深いその色に、見入っていた。
「本当に真っ黒。闇に堕ちたみたいできれい」
「……やっぱり褒めてないよね」