やさしく包むエメラルド
ショッピングモールは閉店時間を過ぎて照明が落とされている。
「送る」
「いいんですか?」
「どうせ隣だろ」
ところどころに街灯は設置されているので真っ暗ではないのに、わずかな灯りはなぜか闇を濃くしていた。
冷たい空気がニットワンピースを通り抜けて身体を冷やす。
「寒いですね」
「車に着いたら暖房入れるから、そこまで我慢して」
「冬になりますね」
「そうだな」
「ココアのおいしい季節ですね」
「……わかった。ごちそうするよ」
今にもどこかへ向かいそうだったので、スーツの裾を引いた。
「違うんです! 今の話じゃなくて、」
間近で見上げたのに、啓一郎さんの顔は暗くて見えない。
「もっと寒くなったら」
見えないのに、笑っているとわかった。
声と、頭に軽く触れた手があたたかかったから。
「いいよ」
寒くなったら、あたたかくて甘いココアを啓一郎さんと一緒に飲める。
啓一郎さんがいてくれれば、この先やってくる季節はどれも素敵なものに違いなかった。