やさしく包むエメラルド
つい笑みがこぼれて手で口元を隠すわたしを視界にも入れず、茶葉を急須に入れ、妙な形の入れ物にポットからどぼどぼとお湯を注いでいる。
その入れ物からさらに一度湯呑みにお湯を移してから、とろりと急須にお湯を注いだ。
ピクリとも言わずしばし急須を凝視するので、わたしも一緒になって急須を見る。
その後急須から注がれたお茶は新緑色をしていた。
それは湯気を伴わず湯呑みに収まっている。
窓越しに聞いたものと同じ、ことり、といういい音をさせて、わたしの前にお茶が差し出された。
続いておせんべいやマドレーヌなど、さまざまなお茶請けが入った菓子盆が、つっと指先で押しやられて目の前に並ぶ。

「すみません。いただきます」

暑いこの季節に熱いお茶。出されたものに文句が言えるわけもなく、舐めるように口に含んだ。

「あ、おいしい」

緑茶特有の苦味はしっかりあるものの、それは軽やかですっきりとしている。
この居間を抜けていく緑風のように、気持ちまでさっぱりとさせるおいしさだった。

「高いお茶らしいので」

わたしの素直な感動に、ずいぶん即物的な言葉が返ってきた。

「おいくらでしょうか?」

負けじと現金な会話を続ける。

「値段は知りませんが、毎年お中元にいただくんです。母も気に入っていて、残りは冷凍して大事に飲んでいるようです」

「そんなお茶、わたしがいただいてよかったのでしょうか?」

「他の茶葉がどこにあるのか知らないので」

「……そうですか。それなら仕方ないですね」

どすっと沈黙が落ちる。
お茶はとてもおいしいのだけど、わたしが飲んでいると会話が途絶える。
一応彼にも客の相手をするつもりはあるようで聞けばぼそぼそ答えるのに、決して自分から話題は振ってこない。
いない方が寛げるほど居心地は悪かった。

この数分でかなり肩が凝った気がして、ふーっと肩の力を抜くと、上品な緑茶の香りがする。
その風味を壊さない程度の風が、また簾を揺らしていた。彼の硬質な髪の毛も、素直にさらさらと風を受ける。
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