やさしく包むエメラルド

昨日あんなに食べても、気持ちは落ち込んでも、食欲って湧くものらしい。
和洋どちらか選べる朝食で、洋食を選んだわたしの前には、トーストにヨーグルト、牛乳、サラダ、オムレツなど洋朝食のお手本みたいなメニューが並んでいる。
レタスの緑色やトマトとイチゴジャムの赤、オムレツの黄色、ヨーグルトに入ったフルーツの色で、色彩は豊か。
普段とよく似たメニューでもまったくの別物だ。

「小花ちゃん、具合悪い?」

食欲はあってもはしゃぐ元気まではなく、おいしい朝食を無言でお腹に収めていた。
わたしがしゃべらないと、この家の食卓はとてもしずかになる。

「欲張ってお風呂に入りすぎたのか、湯疲れしたみたいです」

温泉はやはりただのお湯ではないようで、あったまった身体がかんたんには冷めにくい。
心地よいだるさに身を任せて眠りたい。
二度と目覚めなくていいくらいに。

「そうね。本当にすごくよかったもの。また来たいわね」

おばさんはにこにこと何度目かになる言葉を繰り返している。
還暦祝いとしては大成功だった。

「そうですね」

おばさんはきっとまたここに来るだろう。
わたしもいつかまた来るかもしれない。
けれどそれは、別々の旅行だろうなと、鮭をほぐす啓一郎さんを見ながら思った。






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