やさしく包むエメラルド
11. 色のない世界


かじかむ指先をホットミルクのカップであたためながら、もそもそとトーストを噛み締める。
よくよく噛み締める。
おいしいなんて思わないけど味わって食べる。
そして口の中の水分がすべて吸い取られる頃、ホットミルクで流し込んだ。

「はあ、慣れない。やっぱり薄いな」

朝食の牛乳を安い低脂肪乳に変えてから4ヶ月。
そのうち慣れるだろうと我慢していたけれど、未だに濃い牛乳が恋しいまま。
けれど倍以上高いそれは、今のわたしには高級品。
食パンだってプライベートブランドの一袋88円のやつに変えたし(しかも78円に値下げされてたやつ)、ヨーグルトとチーズはやめた。
わたしにとって朝食は、ただの栄養摂取にすらならない“気休め”的存在に成り下がっていた。

「うううううう、寒い! 今日はなんとしても灯油買わないと」

4月はまだまだ凍えるほど寒い季節なのに、昨日の朝灯油が切れた。
ところが残業でガソリンスタンドの営業時間内に帰れず、我が家の暖房は効きの悪いエアコンと、電子レンジであたためたホットミルクだけ。
こんな生活のせいなのか、風邪をひいた。
風邪薬を飲むと眠くなって頭がぼーっとするから迷ったけれど、これ以上悪化させるわけにいかないので、冷めた元ホットミルクの残りで薬を飲みくだした。

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