やさしく包むエメラルド
「あ! 仕事!」
慌てて腰を浮かせたわたしを、おばさんは肩を押さえつけて座らせる。
「勝手に触って悪いとは思ったけど、携帯に『職場』から電話が来てたから、事情話しておいたわ」
「何から何まですみません。……お世話になります」
携帯を確認すると、同僚からメッセージが届いていた。
『道端で倒れたって本当!? 仕事の方は大丈夫だから、ゆっくり休んでください。何か必要なものがあれば届けるから、遠慮なく言ってね』
ちょっと大袈裟に伝わってしまったようだけど、その気持ちがありがたかった。
『知り合いのお世話になってるので大丈夫。それより仕事休んでごめんね』
“知り合い”というのを彼女がどう理解するのかわからないけれど、今上手な言い訳を考える体力はない。
職場にももう一度自分から連絡して、とにかくこれで当面の憂いはなくなった。
やわらかい綿素材のパジャマに着替えると、それだけで楽になる。
「ちょっとは食べられる?」
おばさんがうどんを作ってくれていた。
出汁と醤油の匂いが湯気に乗ってふわっと届く。
「いただきます! うわー、おいしそう!」
透き通った白だしのつゆに、つやつやのうどんと天かす、ナルト、鶏肉、ワカメになめこまで入っている。
風邪で食欲も落ちていたはずなのに、五臓六腑に染み渡るってまさにこのこと。
「小花ちゃん、痩せたわね」
口いっぱいに頬張った麺を飲み込んで、にっこり笑ってみせる。
「ダイエット、成功したんです」
「若いひとはそう言うんだけどね、こんな体調崩すようなこと、よくないわ」
おばさんは厳しい顔でそう言い、おじさんも渋い表情でわたしを見ながらお茶を飲んでいた。
「……すみません」
「これ食べたらお薬飲んで寝ていてね。退屈かもしれないけど」
「はい。ありがとうございます」
ひとり暮らしをしていると、体調を崩してひとり沈むなんてことは当たり前で、熱があろうがインフルエンザだろうが、コンビニまで食べ物を買いに行くしかない。
同じような鍋焼うどんを買ったとしてもただの栄養摂取でしかないのに、おばさんの作ってくれたうどんは、差し伸べられた手そのもののあたたかさだった。
慌てて腰を浮かせたわたしを、おばさんは肩を押さえつけて座らせる。
「勝手に触って悪いとは思ったけど、携帯に『職場』から電話が来てたから、事情話しておいたわ」
「何から何まですみません。……お世話になります」
携帯を確認すると、同僚からメッセージが届いていた。
『道端で倒れたって本当!? 仕事の方は大丈夫だから、ゆっくり休んでください。何か必要なものがあれば届けるから、遠慮なく言ってね』
ちょっと大袈裟に伝わってしまったようだけど、その気持ちがありがたかった。
『知り合いのお世話になってるので大丈夫。それより仕事休んでごめんね』
“知り合い”というのを彼女がどう理解するのかわからないけれど、今上手な言い訳を考える体力はない。
職場にももう一度自分から連絡して、とにかくこれで当面の憂いはなくなった。
やわらかい綿素材のパジャマに着替えると、それだけで楽になる。
「ちょっとは食べられる?」
おばさんがうどんを作ってくれていた。
出汁と醤油の匂いが湯気に乗ってふわっと届く。
「いただきます! うわー、おいしそう!」
透き通った白だしのつゆに、つやつやのうどんと天かす、ナルト、鶏肉、ワカメになめこまで入っている。
風邪で食欲も落ちていたはずなのに、五臓六腑に染み渡るってまさにこのこと。
「小花ちゃん、痩せたわね」
口いっぱいに頬張った麺を飲み込んで、にっこり笑ってみせる。
「ダイエット、成功したんです」
「若いひとはそう言うんだけどね、こんな体調崩すようなこと、よくないわ」
おばさんは厳しい顔でそう言い、おじさんも渋い表情でわたしを見ながらお茶を飲んでいた。
「……すみません」
「これ食べたらお薬飲んで寝ていてね。退屈かもしれないけど」
「はい。ありがとうございます」
ひとり暮らしをしていると、体調を崩してひとり沈むなんてことは当たり前で、熱があろうがインフルエンザだろうが、コンビニまで食べ物を買いに行くしかない。
同じような鍋焼うどんを買ったとしてもただの栄養摂取でしかないのに、おばさんの作ってくれたうどんは、差し伸べられた手そのもののあたたかさだった。