明治、禁じられた恋の行方

調べれば調べるほど、その女は志恩の企みに最適だった。
しかし、借金の額が、ただ道具を買うには高過ぎる。

志恩は迷ったが、急がなければ女はすぐにでも売り飛ばされてしまうだろう。
まずは噂では無く、自分の目でモノの価値を見定めたい。

そう考えた志恩は、高倉と共に、馬車で園池家へと向かった。

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園池家は、こじんまりとした洋館で、
ただ、綺麗に手入れをされている事が外からでも分かった。

先日母親が亡くなったと聞いている。
借金で首が回らなくなり、いち早く使用人たちに一人残らず暇を出したため、今、屋敷はひっそりと静まり返っていた。


その屋敷の前、一人、女性が立っている。
馬車に気付き、スッと道を空ける。
事前に高倉が手紙で知らせていたと言っていた。

では、あれが。



千歳は噂を物ともせず、出所の知れぬ来訪者に身構えることも無く、背筋を伸ばして凛と立っていた。

確かに、美しい。
白い肌と紅を薄く塗っているだけなのに赤が目に残る唇、気の強そうな目。目の奥に吸い込まれそうなダークブラウンの瞳。

中身を知らなければ、庇護欲を駆り立てられそうなお嬢様だ。


「初めまして。八神志恩と申します。」

「事前に伺っております。園池千歳と申します。」


はじめて、二人の瞳が交わった瞬間だった。
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