明治、禁じられた恋の行方
「初めまして。八神志恩と申します。」
見定めるようにこちらを見る目。
手紙が届いたときには驚いたが、このお金持ちは、ただの道楽で千歳に会いに来たのでは無いだろう。
「突然の訪問、大変失礼しました。園池のお嬢様。
以前よりお話したいと思っておりまして。」
優しく微笑む瞳の奥は、笑っていない。
「そのようなお言葉はいただかなくても大丈夫です。
自分の立場は分かっているつもりです。」
商人は、話が早い方が好きだろう。
形式ばった口上は必要ない。
「私がお眼鏡に叶うでしょうか。」
千歳の言葉に、志恩は目を細める。
と、
「What are you scheming for?(お前は何を企む?)」
目線はそらさず、千歳は答える。
「It's used and it's a used relation.(利用し利用される関係を)」
へぇ。
志恩は顔に浮かぶ笑みを抑えきれない。
いた。俺が求めていたもの。
フッと笑い、姿勢も崩して顔を近付ける。
千歳はピクリとも動かない。
「俺は、園池具忠が持つ華族の人脈への顔つなぎ。あとは、哀れなお嬢様に手を差し伸べた人情家という顔が欲しいな。」
紳士のフリは終わりのようだ。
これが彼の本来の姿だろう。
「君は?何が欲しいの?」
千歳は目を逸らさず答える。
「園池家の復興。それと」
「近衛家を引きずり下ろす」
その瞳の奥に光る爛々とした光に、志恩は目を逸らさず不敵に笑った。