明治、禁じられた恋の行方
船酔いから回復した千歳を待っていたのは、志恩からのスパルタ、無茶振り、依頼の嵐だった。
到着前には、「全員の顔と名前を覚えておけ」
「この3人のターゲットには、お前が先に接近しろ」、と言われてはいたが、
まさか当日、自分と高倉が別の人物と商談をしている間、
千歳たった一人で人の輪の中に投げ込まれるとは思わなかった。
外国人は全体の3割はいただろうか。
女、しかも、17歳の少女が一人で商談に入る。
そのありえない状況に、千歳は震えが止まらない。
何だこの女、と、日本人は、千歳が英語で会話に入ってくると、口が聞けないほど驚いていた。
無礼者、出ていけ、
そういう者もいたが、その時には、その場にいた外国人(紳士に連れ添う婦人が多かったが)がその者を諫め、会話に加わらせてくれた。
英語を話せる女性が、男性の付属品としてではなく交渉に関わる姿が、外国人にも新鮮に映ったのだろう。
婦人たちはキラキラとした目で千歳を見つめ、時々言葉を選ぶように話す姿に、可愛い、可愛いと心を開いてくれた。
パーティが終わり帰りの馬車に乗り込む頃には、
千歳はグッタリとしてしまっていた。
しかし、志恩は休ませてくれない。
「今日の成果は。」
馬車の中でも、ホテルの中でも、千歳は休む間もなく報告をさせられたのだった。