明治、禁じられた恋の行方
親父に見つかるとまずいんだよ、
そう言う麗斗は、その表情も声色も、千歳の知るままの麗斗だった。
ほ、と安心し、引かれるままに、柱の影にすっぽりと入る。
「麗斗、大丈夫なの・・・?本当にごめんなさい、私・・・」
麗斗は、見張りを常につけられてはいるが、
千歳が志恩と婚約をしたという話が伝わってからは、
比較的自由に動けているようだった。
その話をしながら、麗斗に言われた言葉を改めて唐突に思い出し、今更ながら二人きりという状況に落ち着かなくなる。
千歳を見下ろす目が、少し、変わった気がした。
「千歳。婚約、したのか・・・?」
冷静を努めてはいるが、麗斗の声には苦しそうな息が混じる。
言うべきか。黙っておくべきか。
あそこまでしてくれた麗斗に?
・・・嘘は、つけない。
「婚約は、カムフラージュよ。」
「ただの契約。取引なの。」
そう言った瞬間、麗斗は目を丸くし、顔を近付ける。
またあの美しい目。
「千歳。俺は、絶対に迎えに行く。」
「頼むから、俺の気持ちに蓋をしないでくれ・・・」
顎に手を添えられ、耳元で囁かれる。
この人はいつからこんな声を出すようになったんだろう。
腰から崩れてしまいそう。
その時
「うちの婚約者を誘惑するのは、やめてもらえるかな」
バッと麗斗から離れ、振り返ると。
いつもは涼しい顔に怒りを湛えて、志恩が立っていた。