明治、禁じられた恋の行方
「八神さん。お久しぶりですね。直接お話するのは去年以来ですか。」
「そうですね、麗斗さんは少しお痩せになったのかな?」
にこやかに話す二人だが、
志恩は千歳の腰に手を廻し、ぐい、と自分に近付ける。
後ろから、顎をくい、と持ち上げられた。
「君も、男のあしらい方くらい、覚えな」
冷たい声に、怒っているのが分かる。
かぁ、と身体が熱くなった。
麗斗はそんな志恩の姿を見て、愕然とした。
何だ、何で。
契約じゃないのか。
これは。
誰がどう見ても。
『牽制』
志恩を睨みつけたまま、麗斗は紳士のフリは終わりだとばかりに詰め寄る。
「横から。
掻っ攫いやがって。」
聞いた事の無い低い声に、千歳は固まるしかない。
「君がちゃんと掴んでおかないからでしょ。」
志恩が挑発的に笑う。
「今君が彼女と今まで通りに話せているのは、俺のおかげって、分かってるだろ?」
凍り付きそうなやり取りは、直後に麗斗の父親が麗斗に気付いて発した「麗斗!」という声で終わりを迎え、
名残惜しそうに去る麗斗からズルズルと引き離され、
言葉通り、投げ込まれるように馬車に乗せられた。