明治、禁じられた恋の行方
車内の空気は凍りついていた。
志恩も外を向いたままだ。
居たたまれなくなり、千歳は、あの、と話しかける。
「ごめんなさい、勝手に・・・」
志恩はこちらを横目に見ると、ボソッと聞いてきた。
「好きなのか?」
え?と千歳は固まる。
麗斗のことだ。
これまでの事を思い出し、かぁっと顔が熱くなる。
その顔を見て、志恩が顔を歪めた。
「っ・・・」
ドロドロとした気持ちが溢れ、ぐい、と千歳にのしかかる。
意地悪い笑みを浮かべて言う。
「余裕だな。母親が死んでるっていうのに」
瞬間、千歳の表情がサッと固くなった。
その顔を見て、一瞬で後悔する。
しまった
「好きかどうかは分からない。今は、そんなこと考えたくもない。
それに・・・
契約にもそんなこと書いてない。
志恩には、関係ない。」
グサッと胸に何か差されたようになる。
そうだな。
ただ、カムフラージュでも、婚約者の役割は果たしてくれ。
それが志恩が絞り出せた唯一の言葉だった。