明治、禁じられた恋の行方
6.近付く距離
その日から、八神家の雰囲気は最悪だった。
あのパーティの日、馬車から降りても、志恩はエスコートをすることも無く、スタスタと歩き、さっさと家に入ってしまった。
千歳とは必要最低限の会話で、目も合わせない。
千歳が話しかけようとしても、「高倉を通せ」が決り文句になってしまった。
ただ。
千歳が高倉に話しかけていると、その後ろ姿を切なそうに見ているのが高倉にはバレバレだ。
高倉は、はぁ、とため息をついた。
「志恩さん。」
ある夜、高倉は、書斎で仕事をする志恩に話しかけた。
何だ、とこちらを向き直る志恩に伝える。
「千歳嬢に、あまり入れ込まないでくださいね」
志恩の表情が固くなる。
「誰が・・・。入れ込んでなんか無い」
それだけならもう出てけ、そう言って書類に向き直る志恩に続ける。
「今回、志恩さんとの婚姻も契約には入れていませんし、近衛家への復讐に関しては、協力する、というような内容は契約にはいれていません。
・・・もし、千歳嬢を条件に近衛家と協力関係になれそうなら、うちにとってそれ程有り難い話はありません。」
その時は、決断してもらいますよ。
「分かってる」
初めから、そのつもりだ。
志恩は最後までこちらを向かずに言った。
その顔には迷いは無かった。