明治、禁じられた恋の行方
「あぁクソ!このままでは本当に終わりだ!」

次の日、父は大声で母と私を怒鳴りつけていた。
最近は夜会が終わるたびにこうだ。

「父様。もう今は、父様の人脈を軸に、商いで身を立てている人たちに、何か事業に関わらせてもらえないか言うしか・・・」

「女が口出しするな!!」
びくり、と身体が固まる。母が震える手を背中に置く。

「元はといえばお前が学校なんかに通うからだ!普通の娘であればさっさと貰い手が見つかったものを!」

何度も聞かされた言葉に耳が痛くなる。
父は焦っている。私も、何とかしたい。だが・・・

お前の顔など見たくない!!
父の癇癪は収まりそうになく、母と目を合わせ、しばらく家から出ていることにした。
少し経てば、また手段は千歳の嫁ぎ先を見つけるしかないという結論になり、慌てて千歳を呼び戻すだろう。

季節は長い冬が終わり、ぽかぽかと陽気に包まれ、
川沿いを散歩していると気持ちがいい。

無心で歩いていたのだろう、気づくと普段来ない辺りまで来てしまっていた。
まずい、この近くには・・・

「よぉ。」

パッと振り返ると、麗斗がすぐ後ろに立っていた。

「お前、この辺りに近付かないようにしてたんじゃなかったっけ。」

しかも、放心状態だったぞ。

ニヤけながら言う麗斗に、冷たく、何か用、と言う。

麗斗は少し黙り、目を逸らした。

「・・・こないだ。どうだったんだよ」

「どうって?」

「鹿鳴館の夜会で。めぼしい相手、いたのか」

またか。家の中でも外でもこの話題。うんざりする。

「知らないわ」

「知らないって。お前のことだろ」

「知らない。父が誰に断られたのかも、次に誰を狙っているのかも。
うちが経済的に追い込まれているのは、もうどこも知ってる話でしょ。それを知って、私と結婚しようかななんて人、いる訳ないじゃない。」

私が男でも、絶対貰わない。

そう言って橋の欄干に手を置く。

麗斗は、そうか、とポツリと言い、

「お前、黙ってたら誰かお飾りにもらってくれるんじゃないか」

そう言って私を見下げてくる。

冷たくて綺麗な目。

いつもこいつはこういう目で私を見る。
突き放すような、縋り付くような目で私を見てくる。

今にも抱き締められそうだと思うこともあれば、
くるりと踵を返して二度とこちらを向かないような気もする。

吸い込まれそうに見つめ合う。
その時間は長かったのだろうか、短かったのだろうか。

「麗斗さん」

ハッと距離をとり離れると、若い女性が1人、こちらを見ていた。
この人は、見たことがある。
久我家の使用人の1人。

あまり、その方とは、と言いにくそうに女が言う。
誰かが気付いて、彼女を寄こしたのだろう。

「・・・わかってる。」

そう言い、麗斗は目を合わせずに去っていった。
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