明治、禁じられた恋の行方
そんな会話がなされている時、千歳は自室に大量に持ち帰ってきた資料を広げ、読み漁っていた。
浅野家、黒田家、広幡家、細川家。
父が述べたその4つの家は、高倉が調べ、西洋商人との関わりはあったものの、この時代、西洋商人との関わりそれ自体は、特別なことではない。
むしろ、付き合いの無い華族の方が珍しいくらいだ。
それ以外は特段、注目すべき事実は出てこず、
志恩、高倉は、本当にただ、付き合いのあった華族の近況を聞いただけだったのではないか、と結論付けていた。
しかし、千歳はどうしても、ただ近況を聞くだけの会話とは思えなかった。
まず、その4つの家と交流している姿を、千歳は見たことも耳にしたこともない。
そんな家のことを、わざわざ聞いてくるだろうか。
父の具忠は、株や骨董品等、専門外の分野に手を出して破滅してしまったが、元々は貿易に関わる流通に精通しており、
船舶、鉄道、陸路等の運輸業を興したい者と権力のある人物を繋ぎ、自宅でも度々商談が行われていた記憶がある。
自分が誤ることはないはずというプライドから目が曇ってしまったが、
意味の無い会話をするような人とは思えない。
何かを千歳に伝えようとしていたはず。
そう思い、園池家に来ていた人物を思い出してみる。
そう、途中までは順調だった。
陰りが見えたのは、いつ頃からだったか・・・
父が紹介して運輸業を始めた企業が、重要な品物の紛失事件を起こしたことがあったっけ。
そう、あの時来ていた人物は、『柳原家』
柳原勇(やなぎはら いさむ)という男だった。