明治、禁じられた恋の行方
柳原勇について調べるため、千歳は書斎のドアをノックした。
高倉を探したが、もう遅い時間だ。どこにもいないところを見ると、自室に戻ってしまったのだろう。
どうぞ、という声が聞こえ、千歳は中に入る。
志恩は書類にサインをしているところだった。
ちらりとこちらを見て、目を書類に戻す。
「何だ。」
「1年前の経済雑誌を借りたいの」
志恩はもう一度千歳を見た。
何を調べているのかは、恐らくもうバレているだろう。
勝手に持っていけ、
そう言うと、それ以上会話をするつもりは無いようだった。
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千歳は雑誌を胸に抱えて自室に戻り、はぁ、とため息をついた。
あのパーティの日から、志恩は取り付く島もない。
勝手に志恩から離れ、人目にはついていないとはいえ、麗斗と二人きりで話すような真似をしてしまった。
婚約者として出席しているのに、あり得ない行動だったと思う。
契約相手として真面目に取り組んでいないと思われただろうか。
もう期待出来ないと見限られるだろうか。
千歳は、志恩に心から感謝をしていた。
また、尊敬もしている。
決して甘い人間ではないが、自分に成長の機会をくれ、仕事以外は好きにさせてくれる。
そのため、出来ればもっと話がしたかった。
千歳の知らない世界の話を聞きたかった。
だが、もうそれは叶わないのだろうか。
暗い気持ちで、ペラリと雑誌を開いた。