明治、禁じられた恋の行方
志恩が目を開けると、まだ時間は夜明け前のようだ。
薄暗い部屋で身体を起こす。
懐かしい夢を見てしまった。
姉さん。
志恩の家は、貧しい商人の家だった。
元々は鮮魚を主に取り扱っていたが、船舶の発展により海が汚染され、魚が取れなくなり、商売が成り行かなくなってしまった。
両親は他の地域に移り、生計を立てようとしたが、
海の汚染、それは、殆どの港で起きていた事象だった。
仕事は見つからない。
姉と志恩を養うために、慣れない肉体労働や、少しでも食料を恵んで貰おうと駆け回った両親は、続けざまに倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
残された姉弟が頼る親戚もなく、たった二人で生きていくのは難しい。
姉は、今まで両親すら持って帰ってこれなかったような、白い米や、滋養のある食べ物をよく手に入れて来てくれたが、
あの年齢の少女が、普通の労働でそんなもの手に入れられるはずが無い。
彼女は、きっと、自分を売っていたのだろう。
最期、恐らくはそれによる病にかかり、高熱で苦しんだ姉は、両親を追うように亡くなってしまった。
最後まで、彼女は志恩を心配していた。