明治、禁じられた恋の行方
薄暗い中、志恩は千歳の部屋のふすまをそっと開けた。
近付き、顔を覗き込むと、
苦しそうな表情で、荒く息をしている。
その表情に、胸が苦しくなる。
千歳・・・
医者が言うには、ただの風邪とのことだったが、無理をさせると肺炎になる可能性もあるから、くれぐれもゆっくり休ませるように、とのことだった。
桶に水を汲み、額に乗せてある手ぬぐいを手に取る。
千歳の体温で、熱く熱くなっていたそれを、冷たい水に浸し、絞り、額に置く。
気持ちいいのか、ほ、と息を吐いた。
無理をさせすぎた。
ーいや、させていい。十分に利用出来ている。
苦労するべき人間じゃない。
ーそんなのどんな人間にだって言えることだ。彼女はこの運命を背負うべきだ。
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
その時、
ゆらゆらと、千歳の手が何かを探すように宙に伸びた。
その手を、ぎゅっと掴む。
「母様」
きつく閉じている目から涙が流れる。
もう、駄目だ・・
志恩は、落ちていく心を自覚し、目を閉じた。