明治、禁じられた恋の行方
日本で初めて開通した鉄道駅である横浜駅は、日本人だけではなく、多くの外国人で賑わっていた。
アメリカ人建築家が設計したと言われるその駅舎は、まるでホテルのような荘厳な造りで、見るものを圧倒する。
ここに来たときには、心穏やかに観光をする余裕は無かったが、
今は千歳も冬璃も、キラキラとした目でそれを眺めていた。
千歳は、これまでのことも、これからしなければならないことも、全てどこか遠い世界のことのような気がしていた。
まだ家にも余裕があった頃、家族で横浜に来たことがあったっけ・・・
そう、その時、寄せていただいた、この辺りの地主の家があった。
そう、あれは、確か。
浅野という地名ではなかったか。
浅野?
「浅野・・・!」
突然大きな声を出した千歳に、志恩も子どもたちも驚く。
どうしたの、と心配そうに見上げる冬璃に、
なんでもない、と笑顔で答えたが、
千歳の頭はもう、父の言葉でいっぱいだった。
あれは、華族の名前じゃない。
場所の名称を指してたんだ。