明治、禁じられた恋の行方

無かったことにして。


無かったことにして・・・!?



ガチャンッ



手に持っていた珈琲カップが床に落ち、破片が飛び散る。


「あー」

やってしまった。破片を拾いながら思い返す。


あの夜、志恩は、一人、呆然と取り残された。



無かったことに。

それ程、嫌だった?


いや、そんなハズは無いだろう。あんなに求めておいて。
あんなに身体を密着させて、あんな目でこっちを見て、
あんな声で、俺の、名前を・・・


鮮明に思い出し、あぁ違う!と頭を振る。



嫌がってはない。では、麗斗のことが関係ある?
やはり、麗斗のことが好きだから、俺とのキスは忘れたいって?


・・・

それ以上考えたくなく、思考を停止する。




だったらあんなに可愛い誘い方をするもんじゃない。
男だったら絶対に勘違いをする。



頭を抱える。



コン、コン、と控えめなノックの音がする。



志恩と千歳が柳原家に向かう時間が迫っていた。
< 48 / 97 >

この作品をシェア

pagetop