明治、禁じられた恋の行方
無かったことにして。
無かったことにして・・・!?
ガチャンッ
手に持っていた珈琲カップが床に落ち、破片が飛び散る。
「あー」
やってしまった。破片を拾いながら思い返す。
あの夜、志恩は、一人、呆然と取り残された。
無かったことに。
それ程、嫌だった?
いや、そんなハズは無いだろう。あんなに求めておいて。
あんなに身体を密着させて、あんな目でこっちを見て、
あんな声で、俺の、名前を・・・
鮮明に思い出し、あぁ違う!と頭を振る。
嫌がってはない。では、麗斗のことが関係ある?
やはり、麗斗のことが好きだから、俺とのキスは忘れたいって?
・・・
それ以上考えたくなく、思考を停止する。
だったらあんなに可愛い誘い方をするもんじゃない。
男だったら絶対に勘違いをする。
頭を抱える。
コン、コン、と控えめなノックの音がする。
志恩と千歳が柳原家に向かう時間が迫っていた。