明治、禁じられた恋の行方
馬車の中の雰囲気は、再び最悪だった。
数日前にキスを交わした二人とは思えないほどの、重々しい空気。
空気に耐えられなくなったのは、志恩の方だった。
「千歳」
千歳は、志恩の方を向かず、なに、と答える。
その姿に、怒りが沸き起こる。
「いい加減にしろ、その態度。」
思ったよりも冷たい声が響き、千歳がぴくりと震えたのが分かる。
怯えを含んだ目でこちらを見、ごめんなさい、と謝る。
眉間に皺が寄る。
卑怯だぞ、お前・・・
そんな顔をして、俺がお前を怒れると思うか。
ため息をつき、口を開く。
「嫌だったなら、謝る。もうしない。」
「え?」
きょとん、と千歳が志恩を見る。
そして、即座に何のことかわかり、顔が朱色に染まっていく。
それが伝染したように、志恩の顔も赤くなる。
見られたくなくて、窓の方を向く。
無言。
「嫌じゃ、なかったら・・・?」
沈黙を破って聞こえた思いもよらぬ返事に、志恩はバッと千歳へ向き直る。
千歳は、真っ直ぐにこっちを見ている。
「・・・だったら、」
自分のスイッチが入ってしまったのがわかった。
「何回でも、してあげるよ」
「しお・・・ん、・・・志恩!」
千歳の後頭を掴み、覆いかぶさろうとする志恩を、
押し戻して拒否しようとする。
「だめ。紅が落ちる。」
「じゃぁ、ここは?」
耳にキスをする。
ビクリと、千歳の身体が震えた。
「・・・っ・・・だめ。」
「何で。」
「志恩に・・・
誘惑されるから。」
はぁ、と、志恩が熱い息を漏らす。
「どこで覚えたの?そんな返し。
今のは完全に逆効果だね。千歳が悪い。我慢しな。」
そう言うと、志恩は、千歳の耳に、首に、手首に、
狂ったようにキスをした。