明治、禁じられた恋の行方
10.引き裂かれた二人
このまま順調に事は運ぶかと思われた。
が、数日後のある夜、事件は起こった。
ダン、ダン、ダン!
夜中、扉を乱暴に叩く音で、志恩と千歳は飛び起きた。
志恩が、覗き窓から外を確認する、と。
「飯田・・・!」
志恩の目に映ったのは、暴行を加えられ、顔を腫らし、ぼろぼろになった飯田の姿だった。
早く中へ、と入らせ、身体を支えながら言う。
「まさか・・・近衛家か・・・!?」
隣の千歳の顔が引き攣る。
飯田は声を出すのも苦しそうに、ぜぇぜぇと息を吐きながら答えた。
「すまねぇ、八神・・・」
医者を呼ぼうとしたが飯田はそれを制止した。
応急処置だけでも、と千歳が傷口を消毒する。
「・・・ってぇ!」
しみるー!と悶絶する飯田に、志恩は少しだけほっとした表情になった。
思ったよりも元気みたいだな。
ありがたい、と、包帯を巻く千歳に飯田は笑顔を向ける。
「すまないって、何がだ・・・?」
そう聞く志恩に、飯田は申し訳なさそうに、千歳に席を外してもらえないか、と言った。