明治、禁じられた恋の行方
「すぐに支度をして、出て行ってくれ。」
志恩の言葉を、千歳は冷静に受け止めていた。
優しい人。
私から言わなければならない言葉を、言ってくれた。
志恩の苦しそうな表情に、それが勘違いでないと思えた。
もう、これ以上、この人に迷惑はかけられない。
「分かりました。これまで、本当にありがとうございました」
深く頭を下げる。
顔を上げた千歳は、寂しげに、でも、穏やかな笑顔を浮かべていた。
何故笑える。
動揺したのは志恩の方だった。
あまりにもあっけない終わり。
「千歳・・・!」
とっさに呼び止めてしまい、焦って言葉を続ける。
「お前の弟は、引き続き横浜で世話をさせてもらう。
もし、お前が近衛家に何か害を与えようとしたら・・・
分かってるな。」
見上げる千歳の目に動揺はない。
分かりました。
そう言って、千歳は、八神の家を出て行った。