明治、禁じられた恋の行方
その日から、華は志恩にべったりだった。
志恩様はどんな洋服がお好きでいらっしゃるの、絵画はいかが、美術館は、新しく出来たレストランは、・・・
とめどなく出てくる質問に、遠回しな誘いに、
慇懃に優しい笑顔で答え続けるのは、どっと疲れる。
華が習い事に出掛けた隙に、高倉の部屋に逃げてきたのだ。
「千歳に会いたい」
隠す気力もなく、志恩の口から溢れたその言葉に、高倉は顔をしかめる。
「志恩さん。ここで、そのお名前は・・・」
わかってる、
そう言って額に腕をのせる。
「千歳は今、どうしてる。」
返ってこない反応に、答えてくれないか、と思った所で、高倉が口を開く。
「仕事を・・・探しておられます」
ガバッと起き上がった。
何の仕事、どこで、どうやって探そうとしてる、
聞きたいことが多すぎて詰まる志恩に、高倉は仕方ない、と言ったように答える。
はじめはとにかく目につく所に飛び込んでおられたようですが、今は、お知り合いを頼れないかと、色々な家を訪ねておられますね。
たった一人で頑張る千歳の姿が目に浮かび、志恩の顔が歪む。
助けてやりたい。
「どこに、いるんだ・・・?」
志恩の問いかけに、高倉は、それは答えられません、と冷たく言い放った。