明治、禁じられた恋の行方
さっさと帰りたい。
会場に到着して早々、志恩は表情に微塵も出さずに、そう思っていた。
案の定、華の友人という者たちが押しかけ、
どうして一緒にいらっしゃるの、まさか!と、きゃぁきゃぁと煩い事この上ない。
身だしなみはこの国最上位の女達に囲まれても、
もう、志恩の目には、誰も一緒に見える。
当たり障りの無い受け答えをしながら、目線を輪の外にやった志恩の顔から、
一瞬で笑顔が消えた。
見間違える訳ない。今のは・・・!
「少し失礼しても宜しいでしょうか、お嬢様方」
そう言って輪を出る志恩の腕を、華が引っ張る。
「どちらに行かれるの、あまり離れないようにと父様も仰っていたわ。」
甘えた上目遣いに、舌打ちが出そうだ。
「そのお父様の商売相手がいらっしゃっているのです。華様、少しご友人との時間を楽しまれては。」
そう言って、反論する隙を与えず、腕を降ろさせ、振り切るように人の間を抜けていく。
「・・・千歳!!」
こちらから去ろうとするその背中に、志恩は我慢出来ず声をあげた。