明治、禁じられた恋の行方
「千歳!!」
その声が聞こえ、思わず逃げる足が止まる。
というか、目が合い咄嗟に背を向けたものの、お客様がいる今、千歳はこれ以上動く訳にはいかない。
ご夫妻は千歳の不自然な様子に、既に戸惑いの表情だ。
だめ、不安にさせるなんて・・・!
くるりと向き直り、志恩を正面から迎える。
その時、
志恩と千歳の間に、麗斗が立ち塞がった。
優しい笑顔に反して、低い声で言う。
「千歳は今通訳の仕事中だ。邪魔すんな。」
麗斗の姿と言葉に、志恩の顔は完全に表情を失った。
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「なん・・・で、お前・・・」
もはや無礼な物言いが口に出ている事にも気付かず、
志恩は麗斗と千歳を見た。
あぁ。あぁ、そうか。
頼ったんだ。
千歳は。
こいつを。
その瞬間、ドロドロとした気持ちが、自分では制御出来ない勢いで溢れ出す。
志恩は、ふ、と小さく鼻で、冷たく笑った。