いってらっしゃい

『だって、わらわないんだもん。
ママがはなしかけても、わたしがはなしかけても、いつもわらわないんだもん。
あんまりはなしてくれないし……』

『ふふっ』

『ママ、どうしてわらうの?』

『あなたが昔のママと同じことを思っていたから』

『そうなの?』

『うん。ママもね、パパがとても苦手だった。
でもね、話していくうちにわかったの。
あの人はただ、口下手なだけなんだって。
笑うのが苦手なだけなんだって』

『くちべた?なにそれ』

『まだ、分からなくてもいいの。
でも覚えておいて。
会話だけが全てじゃない。笑顔だけが全てじゃない。表に出さない優しさだってあるのよ』

『えー』

『いつかわかる日が来たら、あなたもきっとパパを好きになるわ』

そう言って私の頭を撫でる暖かい手に慰められたあの日。

私はすっかりその事を忘れていた。
< 4 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop