いってらっしゃい
『だって、わらわないんだもん。
ママがはなしかけても、わたしがはなしかけても、いつもわらわないんだもん。
あんまりはなしてくれないし……』
『ふふっ』
『ママ、どうしてわらうの?』
『あなたが昔のママと同じことを思っていたから』
『そうなの?』
『うん。ママもね、パパがとても苦手だった。
でもね、話していくうちにわかったの。
あの人はただ、口下手なだけなんだって。
笑うのが苦手なだけなんだって』
『くちべた?なにそれ』
『まだ、分からなくてもいいの。
でも覚えておいて。
会話だけが全てじゃない。笑顔だけが全てじゃない。表に出さない優しさだってあるのよ』
『えー』
『いつかわかる日が来たら、あなたもきっとパパを好きになるわ』
そう言って私の頭を撫でる暖かい手に慰められたあの日。
私はすっかりその事を忘れていた。