灯火
***

 落ち着くまでしばらく、路地裏に身を潜めていた。

 ――大好きなジュリオと、別れなければならない。

 胸が痛くて泣き叫びたくなる想いを必死になって押さえ込み、歯を食いしばる。

 どうやってイヤな女を演じようかと考えても全然思いつかなくて、ほとほと疲れ果ててしまった。

 どんなことをしてもジュリオが全部許してしまいそうで、無駄だろうなという予想が出てくる始末。

「むしろ、どんどんワガママを言ってくれってニコニコしながら、迫られちゃいそう」

 最初からいなかったんだ――そういう印象を与えるべく、普通に接してみようと考えついた。

「そうと決まれば、落ち込んだ気分を払拭しなくちゃね。さっさと料理の材料を買って、家に帰ろうっと……」

 深呼吸を数回してから、思い切って通りに体を出す。きっともう2度と足を踏み入れることのないこの街を忘れないようにしなきゃと、景色を眺めながら市場へと向かったのだった。
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