Shine Episode Ⅱ



「金のほかに見つかったのは……」


「潤一郎、もういい」


「えっ?」


「金塊だろうが札束だろうが、盗難品とか違法な物とか、どうせ厄介な代物だろう?

どっちにしろ没収だ、余計なことは聞かない方がよさそうだ」


「まぁ、そうですね」


「一瞬喜んだが、一攫千金なんてものは現実味がないんだよ」



叔父と甥の会話は軽妙で、見つかったお宝は自分には縁のないものだと、久我社長は悟った顔を潤一郎にみせた。



「それより、事件については上手く処理してくれたそうじゃないか。

そっちを詳しく聞きたいね。

証拠不十分とはいえ、彼らはほかの事件にも関与していたんだろう?

各国を飛び回っていたそうじゃないか」



久我社長が言う彼らとは 『黒蜥蜴』 を指している。

テロリストの手先だったのか、誰が指示を出していたのかと、矢継ぎ早の質問があった。



「昨夜調べた結果ですが……」



それには籐矢が説明をはじめた。

やはり昨夜は客船に残っていたのか……

水穂はまた不機嫌になっていた。

披露宴とクルーズを終えた 『客船 久遠』 は、客を降ろしたあと船内のクリーニングに入ることになっていた。

大勢の客を迎えた後の始末と清掃は容易ではなく、客の下船後ほどなく大勢の清掃スタッフが客船に乗り込む様子が、港にいた人々に目撃されていた。

しかし、作業服姿の清掃スタッフが、実は捜査員であるとは誰も気がつかなかったはずである。

近衛家の依頼で、水穂の父と潤一郎の叔父など警察幹部の息のかかった捜査員が密かに派遣され、船内の捜索にあたった。

蜂谷廉ほか、『黒蜥蜴』 のメンバーはもとより、角田の仲間たちの事情聴取も行われた。

元来、その場でそのようなことは行われないが、今回はすべてが異例であり、拘束された彼らの処遇も普通ではなく、事件は内々に処理され、密かに彼らの処分が決定することになるのである。

大概の全容を把握した潤一郎と籐矢は、捜査結果を持って各方面から召集された幹部へテロ未遂事件を報告した。

テロを未然に防いだということで、ジュンやユリ、栗山や水野など、個人的に近衛家に協力した者の行動は不問とされたのだった。



「宗一郎から聞きましたが、内野さんや岩谷さんには、新婦の警護でずいぶんお世話になったそうです。

彼女たちに迷惑がかかったのではないかと、私も気になっていました。

ほかの皆さんにも、どうぞよろしくお伝えください」


「ありがとうございます」


「香坂さん、大変な目にあったそうですね。怪我をされたそうですが、大丈夫ですか?」


「いえ、怪我と言うほどではありません。お気遣いありがとうございます」



いきなり話を向けられ水穂は緊張したが、久我社長の気遣う言葉に恐縮するばかりだった。



「しかし、女性を拉致するとは許せませんね。

宗一郎がお世話になっている家政婦さんも、捕らわれたそうじゃありませんか。

やはり、我が家に恨みを持つ者が絡んでいるのでしょうか」



家政婦の三谷弘乃は、籐矢が海外に赴任している間、潤一郎の兄、宗一郎の家の管理を担っていた。

それで弘乃が狙われたのかと思ったようだ。

潤一郎、宗一郎の母、塔子と久我社長は姉弟である。

昼食会で襲われた久我会長は二人の父親で、以前起こった事件で犠牲者があり、責任をとって代表の職を辞していた。

事件後何度か脅迫されていたため、今回もその件が絡んでいるのではないかと久我社長は考えていた。

それについては、籐矢も潤一郎も警戒していたことであり、久我会長の警護には京極長官がついていたが、わずかな隙に襲われる結果となったのだった。



「会長のご様子はいかがですか。私がついていながら、本当に申し訳ありませんでした」


「父は元気にしております。京極長官のおかげです。長官がかばってくださったので、父は無事でした」



「それにしてもまったくけしからんことです。ご高齢の方に乱暴など、許せません。

ステッキで襲いかかったマネージャーは、偶然だったと言っております。

ステッキが見えたため、騒ぎを起こすつもりでやったと」


「では、久我への報復ではなかったのですか。父を襲ったのではないと?」


「現段階で断定はできませんが、どうもそのようです。

それこそ久我会長がそこにいた、偶然だったと言っておりますが」


「なるほど……しかし、騒ぎを起こそうとしたのは事実ですね。

では、近衛家の披露宴を妨害するために?」


「もっと、大きな目的があったようです。

それについては、しばらくお待ちください。もうそろそろ来るはずですが」



京極長官は、しきりに時計を見て多少苛立った様子だった。

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