Shine Episode Ⅱ
籐矢と潤一郎が部屋に戻ってきた。
気の張る時間がすみ安心したのか、どちらからともなく深いため息が漏れた。
「お疲れさまだったな」
「あぁ、お互いな」
含みのある言葉がかわされる籐矢と潤一郎を、水穂の目がじっと見つめていた。
「なんだ、言ってみろ」
「まだ、肝心なことを聞いてません」
「ほぉ」
籐矢はとぼけたが、潤一郎は面白そうに水穂を見ている。
「いったい誰が首謀者なんですか。蜂谷理事長は何が目的だったんですか。
これからじっくり聞かせてもらえるんですね。約束でしたよね?」
「そうだな。ほかに聞きたいことは?」
「まだいっぱいあります」
「そんなにあるのか」
「あります。黒蜥蜴はおとりですか、水野君の本当の役割は?
隠し財産は、ほかになにがあったんですか。波多野さんは? それから……」
水穂の言葉は、そこで一度途切れた。
聞こうかやめようか迷っている。
「遠慮せずに言ってみろ」
「省庁に根回しをしていたようですが、どこまで伝わっているのかと思って……
事件を公にしないために、どんな権力が使われたのか気になります」
「いい質問だ。まだあるんだろう?」
「近衛さんも神崎さんも、隠してることがありますね」
「うん?」
「久我社長にも全部は伝えず、警察幹部もすべてを報告していない。
政府のお偉方にも都合の良い部分だけを伝えた。どうしてですか。答えてください」
「籐矢、香坂さんに隠し事はできないね」
「ははっ、そうらしい」
「笑ってないで、答えてください! これって隠蔽工作ですよ、わかってるんですか」
水穂の目が、ふたりの男を睨み付けた。
「世間が知らなくていいことがあるんだよ」
「そんなこと、誰が決めたんですか」
「そうだな、そのとき、その場に居合わせた人物だな。この件に関しては、俺と潤一郎だ……水穂」
「なんですか」
ふてくされた顔のままぶっきらぼうに返事をした水穂は、籐矢から顔をそむけた。
せめてもの反抗のつもりだった。
「政府関係者にテロリストの内通者がいた、警察内部にもだ。
某企業のトップや名だたる家の子女が、テロリストの手先だった。
そして、大勢が集まる客船でテロは実行されようとした。
それらを防ぎ、犯人を突き止めるために動いたのは、俺やおまえや潤一郎や仲間たちだが、民間の特殊機関も動いた。
民間だからこそ自由度が高い。今回の依頼主は近衛家だった」
籐矢が取り出したタブレットには、水穂も見覚えのある名前が並んでいた。
名だたる家の子女だと籐矢が言ったとおり、一流企業のトップを親に持つ息子や娘の名が記されていた。
これらが世間に漏れたらどうなるか。
企業のブランドイメージは崩れ、方々へ及ぼす影響は計り知れないだろう。
個人の責任ではすまされないことは、水穂にも容易に想像できる。
それでも、許してはいけないことであると、水穂の中の正義が叫んでいた。
「近衛さんのお兄さんの披露宴だから、汚点を残したくないのはわかります。
ささいな問題なら、わざわざ公表する必要はないと思います。
でも、未遂とはいえテロですよ。彼らをかばうんですか、犯罪者なのに。
真実は明らかにするべきです」
「かばうんじゃない、内々に処理するだけだ。ただし、マスコミには一切公表しない」
「私が言うかもしれませんよ。マスコミにリークするかも」
「おまえはそんなことはしない」
「どうして、そう言い切れるんですか」
「おまえは俺のパートナーだから……
それから、正義はそれぞれの胸のなかにある、俺はそう思う」
「……神崎さん」
正義とはなにか、水穂は自分に問いかけていた。