Shine Episode Ⅱ
「……そんなことがありましたか……京極の大奥さまが、籐矢さんをお間違えになるなんて……
確かに籐矢さんは大旦那さまに良く似ておいでですよ」
「おばあさまのところへ、誰も行かない日を選んで行ってるみたいでした。
ホント素直じゃないんだから」
「籐矢さんらしいですね」
それから弘乃の話は籐矢の小さい頃へと進み、水穂は何杯もの紅茶を口に運びながら弘乃の思い出に寄り添った。
懐かしそうに昔話をする弘乃を見ながら、あのあとのことを話さなくて良かったと思っていた。
祖母に別れを告げ、午後の用事のために街中を籐矢と歩いているときだった。
どこからか銃声に似た音がして、体が強張り立ちすくんでいる水穂の前に籐矢の体が現れた。
見えない何かから守ろうとしたのか、大きく手を広げ水穂をかばうその背中に思わずすがった
水穂を抱きかかえ、急ぎ車へと走り出した。
二人がたどり着いた車のタイヤはことごとくパンクしており、何者かに狙われたのは明らかだった。
すぐさま室長に連絡をとり、応援を頼むと同時に水穂の保護の強化を強く進言しながら、震えるのを抑えきれず青ざめていく水穂を籐矢の力強い腕が抱きしめていた。
緊迫した状況でありながら、この人に守られているのだと実感し籐矢への思いを強くした瞬間でもあった。
ところが数日後、事態は思わぬ方向へと動き出した。
水穂がいない場所で破損した籐矢の車が見つかり、破損個所は明らかに故意付けられものだった。
その後、籐矢が出向いた場所で立て続けに不可解な事故がおこり、場合によっては籐矢自身が危険にさらされたのではと推測された。
それは、彼らの目標が水穂から籐矢へと移ったことを暗示していた。
その日以来、水穂を遠ざけ一人で行動する籐矢の姿が見られるようになった。
「今年もあと数日ですね」
「本当に、早いこと……」
「ひろさん、初詣に行きませんか」
「まぁ、嬉しい。籐矢さんの分までお参りしましょう」
「そうですね。ひろさん、着物で行きませんか?」
「えぇ、そうしましょう」
弘乃と話しながら、水穂は籐矢に必死にすがりついた日のことを思い出していた。
その日は二人が想いのすべてを重ねた日でもあった。