Shine Episode Ⅱ
午後2時を過ぎ、そろそろソニアが来る頃だろうと思いながら、いつも以上にリハビリに力が入り疲れが出た籐矢は不覚にも眠ってしまった。
「……神崎さん……神崎さん」
水穂の顔がすぐそばにあるような気がした。
夢を見ているのか幻が見えるのか、おぼろげに何かが見えるが、うつろな頭は半分眠ったままで、何度か目を明けようと試みるが思うように目があけられない。
「神崎さん、聞こえますか? 私がわかりますか? ねぇ、目を開けて、おねがいだから」
握られた手のぬくもりは夢でも幻でもなかった。
一瞬にして覚醒した籐矢の脳が目の前の人物の確認をする。
「水穂!」
「良かった……私、忘れられちゃったのかと思った」
泣き濡れた顔が籐矢の首に覆いかぶさる。
現実とも幻とも信じがたい状況に戸惑いながらも、籐矢は水穂の背に手を回した。
「心配したんですよ。どうして黙って……」
「おまえがこうして泣くと思ったからだ。泣き顔は見たくない」
「そんなのあんまりです。泣きたくて泣いてるんじゃないのに、誰のために……」
「顔を見せてくれ」
「泣いてるから嫌です」
「バカ、見せろ」
「バカって言わないでください」
「ふふっ……元気が出てきたな。いつものおまえらしくなった」
「せっかくフランスまで来たのに、その言い方あんまりです」
首から離れた顔は涙でクシャクシャになっており、籐矢が何度も夢に見た唇は小さく震えていた。
水穂の頬の涙を指で拭い、首に手を回して額を合わせた。
「驚きが大きすぎると、驚いたって顔ができなくなるらしい」
「もっとびっくりして、飛び上がるくらいのリアクションがあるのかと思ってたのに。
神崎さんったらいつもと変わらないし、こっそり来た意味がないじゃないですか」
「これでも充分驚いてるよ。だけどなぁ、イマイチ実感がない」
「こんなにそばにいるのに?」
「そうだ、こんなに近くてもだ……」
籐矢は抱きつく水穂の体を放してベッドから起き上がった。
「ここにこい」
「でも……」
「医者の許可もある。恋人が膝に乗るのはかまわないそうだ」
えぇっ……と恥ずかしそうに声をあげた水穂は、籐矢の口から恋人と言われ、嬉しさを隠しきれない顔でおずおずと近づいていった。
遠慮するなと力強い腕に引き寄せられて、あっという間に膝の上に乗せられた。
「おまえの夢ばかり見ていた」
「本当に?」
「あぁ……」
軽く触れ合った唇はどちらも冷たかった。